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隠匿の令嬢
第21章 その世界、色鮮やかに
入口付近でマザーに一揖し道を譲った人物は、逆光で顔はまだぼんやりとしか見えてはいない。
長躯の男。それははっきりと見て取れる。
だが逆光であろうが、薄暗い場所であろうが彼を見間違えたりはしない。
逢いたくて、逢いたくて焦がれていた人。
けれど願わくば生涯逢いたくなかった人。
コツ、コツと靴音を鳴らして近付いてくる彼は、距離の分だけ顔もはっきりと見えてくる。
神々しい出で立ちは記憶のまま、怜悧な眼差しに射抜かれて、アリエッタは視線を逸らせないでいる。
アリエッタの髪を隠すベールの下にある眉は寄せられ、漆黒の瞳は揺れる。
無意識に口許は両手で覆っていた。
──どうして……ここにいるの?
傍まで進み来た彼。思わず滲みそうになる涙は、奥歯を噛み締めていないと我慢は難しい。
見詰め合う時間が永遠にも感じられた。
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