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くちなし
第1章 始
私がこの力を発揮したのは、12歳の頃だった。


「お母様…私…。」
モジモジと離す私へ優しく声をかける。
「雅…どうしたんです?
 言ってご覧なさい。」

広い屋敷の中で母と2人っきりになれる唯一の場所。
書庫へ来ている時だった。

「…コソッ………。」
「まぁ!!雅!おめでとう!あなたも、大人の女性になったのね!私嬉しいわ!お赤飯を…。」
とても喜んでいる母と呆気にとられている私。

「お母様!どなたへも、言わないで下さい!!
 お赤飯など、いりません!!」
「まぁそうね…お年頃ですものね。ふふふ!
 大丈夫よ。黒田へも言わないわ。安心なさって。」

黒田とは、私の身の回りの世話をしてくれている使用人だ。

「はい…。お母様へ生意気な口を聞いてしまいました…。」
「大丈夫よ!親子なんですもの。気にすることないわ!
 むしろ、堅苦しい言葉なんか使わないで頂戴。」

ひとまず私は、母への報告を終え胸をなで下ろすのであった。

「お嬢様。」
後ろから声を掛けられ驚く。

「黒田…。どうした?」

「いえ…。この間お約束をしていた事で。
 少しお時間よろしいですか?」

私は、黒田へくちなしの花を見せろとせがんだ事を思い出した。

「もしかして、咲いたの?!」

「ええ。さようでございます。温室の方へ。」
柔らかく微笑む黒田の表現を見て心が温かくなる。
私の我が儘を覚えてくれる黒田。

ードキンドキンー

私の心臓は、どうしてしまったのか…。
さっきからうるさく、なり続ける。
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