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くちなし
第9章 昴
だから、俺は自分を偽って無駄に明るく振る舞って、誰も心の隙間になんか入って来られないように。

明里に言われたように、愛想よく振る舞っていれば何も問題ない。


空っぽになった心を埋めようと何度も明里の変わりを求めた。
俺の過去を誰も知らない大学へ入ることで、偽りの俺を演じる事ができた。


俺の家は、男は医師を目指すのが当たり前だ。
しかし、本当に助けて欲しい人を救えない医師なんかになりたくなかった。
父の後継者は、兄がいるから問題点はないはずだ。

父も遊び呆けている俺を一家の恥だと思っている。

家では、父に反抗するものなど居るはずもない。
俺の唯一の反抗心で、ただただ遊んで不真面目な生活を送っている。

真面目に生きている人が目に付くのは、なんでだろう。

最初は、彼女が放つ噂の香りに興味本位で近づいただけなのに…。

不思議な人だ。

芯が強く、品があり、気高い。

でも…ふとした瞬間に見せる哀しげな彼女の雰囲気。

気になって仕方なかった。
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