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目が覚めたら。
第5章 変態王子が暴走しました。
煉瓦造りの大きな建物は、威風堂々として天高くそびえ立っている。
昨日の嵐などなにもなかったような、見事な晴天を貫きそうだ。
正門を潜り、道なりに沿って中央棟だとかいう場所に向かうあたし達。
所構わず突き刺さる周囲の視線。
これは……うん、あたしが抓ったナツの赤いほっぺを見ているに違いない。しかしこの子、どうして虐げられても嬉しそうなのかしら。
「ナツ、どうしてあたしを大学に連れてきたの?」
「……しーちゃんと一緒に学校通いたかったんだ」
頬を摩りながら、悲しげに微笑むナツ。
あたしとナツは10歳違い。
ナツが小学生に上がったときは、あたしは高校に入ったばかり。
……ナツのストーカー行為は、ナツが保育園に入る前から続いていたけれど。
「しーちゃんが昏睡した時、絶望した。そんな中で波瑠兄が言ってくれたんだ。奇跡を信じろって。俺が必ずお前に奇跡を見せてやるからって。……だから僕は信じていた。しーちゃんが必ず目覚めることを。波瑠兄がその方法を見つけてくれることを。
本当に奇跡だよね、12年間辛抱した甲斐があった。ようやく僕の方が2歳も年上になれたんだから。年上になったらしーちゃん僕をお嫁さんにしてくれるって言ってたから。だからすごく嬉しい。嬉しいんだよ?」
目に涙を滲ませる、可愛いナツ。
きゅんきゅんさせるナツ。
だけどアンタは忘れてるよ。
12年前は17歳でも、12年後のあたしはアラサー。
現在19歳のナツは、あたしより年上にはなれはしない。
しかも旦那ではなく、嫁になりたいのか。
大体あたし、そんな約束したっけ……?
可能性としては、まとわりつくナツがうざったいから、適当に言っただけのような。
「僕……掃除洗濯料理家事全般、花嫁修業頑張ったよ。いつでもお嫁にいけるからね?」
なんて愛らしい、健気な子。
だからあたしは真実を言えないじゃないか。
とりあえず、イイ子イイ子。
喜んでいるナツを見て、あたしもつられて微笑んだ。
ああ、すごいバカップルと思われているんだろうな。
だけどそれでもいいや。
この子、変態だけど可愛いから。
「夜もスケスケパジャマで頑張るからね。ア・ナ・タ」
……いいのか、本当に!?