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目が覚めたら。
第1章 貴方は誰ですか。
診察室――。
破天荒な医者が連れた診察室は、至って質素な機能的な小部屋だった。
どこにでもあるような事務机と椅子。そして回転椅子が2つ。
机の上には、筆記用具や分厚い本や資料の他に聴診器だの血圧計だの医療現場ではおなじみのグッズがおかれてある。
12年の間に横長に平べったく大きくなったパソコンの画面も置いてあり、かなりびっくりだった。キーボードやマウスには線が繋がれていない。ただの置物なんだろうか。
興味津々ながらも、パソコンの画面にある日付も、机に飾られているカレンダーの日付も12年後のもので、どこにもどっきりの証拠を見つけることは出来ずに、密かに落胆するしかなかった。
12年眠った患者を入れた、ごく普通の診察室――。
……ただ、机の上に違和感がひとつある。
なんで、昔の銭湯に売っているような瓶の牛乳があるんだろう。
しかも汚らしい手書きで、"特濃俺様牛乳"とラベルが貼られている。
あたしが眠っていた間に、こんな怪しげなものが発売されるようになったのか。そしてこんなものが、現役の医者が飲むようになったのか。
カルチャーショックを受ける。
壁のある横にはあたしが今までしていた白濁の点滴道具と心電図。そしてしわしわになったシーツが敷かれた診察ベッド。
……このやけに生々しく"たった今まで使われてました"感を訴えるしわは、きっとあれだ、うん。
この男が、"お医者さんごっこ"をしていたんだな。