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目が覚めたら。
第2章 とんでもないことになってました。
型破りの担当医が告げた。
「お前は突如病気に罹患したと言うより、淫魔の体質になった」
「淫魔!?」
「だからしーちゃん。僕が説明したでしょう? 男の濃~い精液を」
あたしは横を向くこともせず、いまだ繋ぎ続けているナツの人差し指を反対側に反らせて、黙らせた。
「医者らしく説明するとな? 人間の体には、臓器や心に強く影響させる内分泌……いわゆるホルモンというものが多く存在している。そしてそれはどれかひとつでも欠けたらいけないものだ。
淫魔の体質になったお前の体には、普通の人間の持ち得るホルモンの他に、もうひとつホルモンが出ている。それをSuccubus(淫魔)……Sホルモンと名付ければ、Sホルモンは男性ホルモンを摂取して女性ホルモンに転化する働きを持つ。女性ホルモンが過剰になると、フェロモンが高まり魔性じみた特質を備えて男を惑わせるが、一定期間の間に男性ホルモンを摂取しなければ、逆に体内のホルモンを破壊していく。
ま、あれだ。いい男が見つからないと癇癪を起こして、とにかくものを壊しまくる、独身アラサー女のヒステリーみたいなものだな」
……それは、アラサーになったあたしへの嫌味か、それともアラサー全般への暴言なのか。
ハル兄がブチャイクだったら、絶対今頃この世にはいないだろう。
女の敵のくせに今までしぶとく生きている……ハル兄の生命力はゴキブリ並みだ。
「で、だ。なんでお前がそんな体質なのかというと、それは先天性のものだとしか言えない。どんなに調べても事例がねぇんだ。お前……死んだお袋さん、覚えているか?」
突然持ち出された家族のことに、あたしは記憶を巡らした。
「うん。仲良いパパが事故で死んだら、ママが拒食症で倒れて死んじゃった……」
蘇る、高校2年生の記憶。
あたしの母は、ナツの親かと思う程に太っていた。対して父親はガリガリで痩せていた。
それが父が死んだショックで思い詰めた母は、たった一週間で父の体躯以上の激やせして、父の後を追うように死んでしまった。
それからひとり残されたあたしは、誰もいない家で自炊を覚え、一人暮らしのような生活をした。その悲しみから逃れるように、あたしの……消えてばかりの彼氏も頻繁に変わる――。
それから1年もしない間に、あたしは眠ってしまったようだけれど。