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目が覚めたら。
第8章 鬼畜帝王が暴走しました。2
ハル兄の匂いに、その熱さにくらくら目眩がする。
それはまるで愛に飢えた子供のように。
微かに震えて、あたしの愛を求めるその姿は愛おしい。
そこまで追いつめられているんだね。
そこまで不安なんだね。
「いいよ。あたしでいいなら……波瑠を愛してあげる」
気分は慈愛深い聖母。
ハル兄が奇跡を起こしてくれたのなら、あたしだって起こしたい。
あたしの愛如きで、ハル兄が……完全復活出来るのなら。
しかし返事が返ってこない。
少し体を離して見ると、ハル兄はなんとも神妙な顔で考え込んでいる。
「"愛してやる"っていう上から目線の言葉はこの際どうでもいい。だけど、"あたしでいいなら"の意味はなんだ?」
「まんまの意味に、理由を求めるの?」
日本語って難しい。
うんうん唸ったあたしに、ハル兄が言った。
「俺、"お前の"愛が欲しいんだけど」
「うん。だから"あたしでいいのなら"って言ってるんだけど」
ハル兄の眉間に皺が刻まれる。
「なんでそんな答えだ? 俺、医療行為云々言ってねぇよな」
「うん、言われてないね」
一体、ハル兄はなにを拘っているのだろう。
「シズ、好きだ」
思案顔のままで言ってくる。
「うん、あたしもハル兄好きだよ? なに、今さら。あたし嫌っているように見えたの? お口でしたの、愛情が伝わらなかった?」
嫌われていると思われていたのなら、凄くショックだ。
「………」
「………」
「………」
「……?」
「……はぁっ」
「なんでそんなに大きなため息? あたし変なこと言った?」
そんな時だった。
気怠げに上げられたハル兄の顔が、
「……シズ」
急に、ふっと真面目なものとなったのは。
そしてハル兄の顔が極度に緊張したような強張ったものとなり、僅かに戦慄く唇がゆっくりと動いた。
「………愛してる」
漆黒の瞳が大きく揺れた瞬間、そよ風が吹いた。