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目が覚めたら。
第1章 貴方は誰ですか。
「ひっ!? ひど……僕はしーしのために」
「あたしのためならまともになれ!! それ以前に!! いい加減、そのナリでしーしはやめろ!!」
「え……じゃぁ……シズル?」
「誰が呼び捨てを許可した!?」
ガキンチョを教育する親の如く、相手はあのハナタレデブだと思いながら、両コメカミを両手の拳でぐりぐり、ぐりぐり。
これは昔のコイツが苦手だったものだ。
しかし昔のように音を上げない。
こんなに潤んだ目は、痛みを耐えているんだよな? 悦んでいるわけではないな? 判別しがたい複雑さを抱えながら、ぐりぐり、ぐりぐり。
「だったら、シズ!!」
「その名称は、既に使われております」
「だったらしーっ!!」
「擬音語は却下っ!!」
「じゃあなんなら良いんだよっ!!」
依然ぐりぐり続けながら、あたしは考えた。
「シズルお姉様、シズル様、シズルお嬢様。この三択からお選び」
「わかった、わかったから。しーちゃんっ!!」
「……どこが三択だ」
「しーちゃん、しーちゃん!! 可愛いでしょう、女子高生みたいでしょう!? アラサーの体を持っても、心は乙女みたいでしょう!?」
「みたいじゃない、あたしは乙女だぁぁぁぁっ!!」
「ひぃぃぃぃぃっ!!」
ぶちっ。
……なんだこの音。
あたしのものでも、悲鳴を上げた王子様からのものでもない。
どこかでぶちっと盛大に切れる音がして、乱暴にドアが開いた。
「――ナツっ!! お前、目覚めたばかりのシズに体力使わせるなっ!!」
翻る白衣。
漂うイケメン臭とタバコ臭。
あろうことか、患者の病室に堂々と火のついた咥えタバコでやってきたアウトローな医者は、あたしのベットにぶら下がる担当医プレートに記載されている名と同じ、佐伯波瑠だろう。