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その、透明な鎖を
第9章 だったらどうして
その手をぎゅっと握りしめたまま。
それ以上、言うべき言葉をもう何も見つけられないかのように、彼はただ、うなだれた。
そんな彼の姿を、ただ、黙って彼女は見て。
何を思ったのか、何を感じたのか。
その表情からは分からないけれど。
「……悠斗」
でも。
彼の名前が、その唇から紡がれて。
「話す、から」
その言葉に、ぴくり、と。
彼の身体が微かに揺れた。
「ちゃんと、全部、言うから……」
静かに、顔をあげて。
自分を見ていた彼女と、そのまま視線を合わせ。
「凛――……」
力のない呟きを漏らして。
それでも、その手だけはさらに強く握った。
離したくないと、彼女に伝えるかのように。
離せないと、自分に言い聞かせるかのように――……。