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その、透明な鎖を
第10章 私が失ったもの
私はママが大好きだった。
美人で、優しかったママ。
いっぱい私の話を聞いてくれて。
いっぱい一緒に笑って。
喧嘩しても、すぐ仲直りして。
……本当に、私はママが大好きだったのに。
まだ、36歳。
あまりにも、早すぎるその別れ。
けれど……。
私以上に、パパの哀しみは深かった。
もう動かないママに縋りついて号泣していたパパ。
あんなパパ、初めて見た。
送り出す準備をしなければならないと、パパの姉の千津ちゃんがパパをママから離そうとしても、抵抗して。
そんなパパの姿に、私は泣いた。
ママが亡くなったという事実をまだよく受け入れられていなかった私。
けれど、パパのその姿に、ああこれは本当のことなんだと。
ママは、死んでしまったんだと。
『凛』と私を呼ぶ優しいあの声は、もう二度と聞けないのだと。
どうしようもなく残酷なその現実を、私はそうして知ったのだ――……。