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吼える月
第36章 幻惑
「浮いているわけではありません。これが本来の姿です」
サクはラクダをそっと下に下ろした。
「え? 道?」
しかも道幅は広い。
「はい。上を見て下さい。赤い鏡に戻ったでしょう?」
ユウナは下を覗き込むと、溶岩がある。
「え? どういうこと?」
するとサクは、放心状態のラクダの頭を撫でながら言った。
「空間が逆転していたようです。恐らく、道の崩壊が止まった時から、次の罠に入ったんでしょう。だから今が正常です」
「逆転!?」
「はい。姫様が大泣きした時の涙が上に上がったんです」
「大泣き……コホン。でもあたし達がいつのまにか道の下側を走っていたのだとしたら、ラックーちゃんごと下に真っ逆さまに落ちたはずよ!?」
「ラックーは尋常じゃねぇ速度で走っていたために落ちなかったんですよ、とろとろしていたら恐らく途中で落ちたでしょうが」
ユウナは揺れたままの目を袖で拭うと、わかったようなわからないような微妙な顔をして、サクに聞いた。
「なんのため?」
「だから罠ですよ、罠。もしかするとそのうち、天井の溶岩から燃えたぎる小岩が雨のように降り注いだかもしれません。実際、降り注いでいたのかもしれませんが、ラックーがそれをすべて突破してくれたと」
つまりラクダの暴走は結果的には功を奏したのだと、サクは呵々と笑った。
「さすがだな、ラックー」
『ぱへぇ…』
ラクダは気の抜けた声を出し、ユウナもサクも思わず笑ってしまった。