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吼える月
第38章 艶宴
 理由はわからない。
 他国の祠官と武神将に連なる者たちだから見逃した……というのであれば、追放すればいいのだ。ここまでして隠匿して守り続けた緋陵に、外部の者を入れる意味がわからない。それなのに、ユウナに持ちかけたヨンガの提案により、全員が緋陵の中枢に足を踏み入れることになった。

 女達だけで引き籠もっていた鬱憤を晴らすため、いたぶり目的で招き入れたのだろうか。その場合、テオンを含めた全員の行く末は、生きて朱雀を出ることは出来まい。

 もしくは――。

 ヨンガがユウナを朱雀の民にしようとしていることに注視するのなら、ユウナが女性だからとか、面白いからという目的以外に、別に意味があるのだろうか。

 ユウナは黒陵祠官の娘。
 さらに神獣玄武より直接手渡された玄武刀も使える。

 そこになにか、利用価値でも見出したのだとしたら――。

「あ、あのでちゅね、お、お母ちゃん」

 テオンは恐る恐る老婆に尋ねてみる。
 話を聞き出すためには、友好関係を築かねばならない。

 本来なら〝おばあちゃん〟と言いたいところを少し若めに言うと、老婆は大仰に驚いた顔を見せた。
 そして――。

「お母ちゃんと呼んでくれるのかえ~!?」

 突如老婆がボロボロと涙を零したのである。

「女として生まれ、子供を生んで育てる喜びを知らぬまま朽ちてしまうと思ったのに、妾に可愛い子供が出来たのかえ!」

 テオンは老婆の片手で軽々と持ち上げられ、涙で濡れた大きな顔に、これでもかと顔も身体もなすりつけられる。
 まるでそこいらに転がっている、遊戯人形のようである。

 ユエは相変わらず脳天気に笑っているが、テオンの目はうつろだ。
 触れあう肌という肌が鳥肌となり、言葉を誤った感が否めない。

 僅かにラクダと熊鷹と目が合った気がしたが、動物たちはすっと目をそらす。つくづく薄情な動物達である。
 テオンは復讐心を拠り所に、飛びそうになる意識を必死に止めた。
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