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吼える月
第36章 幻惑
――ワレハマダ、クイタラヌ。ジュクセイセシ、ナンジノニクヲクワセヨ。
いつの間にか、体を出入りする痛みの元凶は、闇から蛆へと変わっていた。
崩れていく己の体に、サクから本能的な戦慄の声が迸る。
自分は、こんな姿になってまでなぜ生きている。
この痛みを抱えてまで、生きたくない。
死にたい。
死なせてくれ。
――デハナンジヲ、モライウケル!
突如現れた、牙だらけの大きな口。
それがサクの頭をかみ砕こうとした――。
その時。
「えいえいえい!」
『ばへぇぇぇぇぇぇ!』
なにかの声と、嘶く声。
闇が薄れて、それが輪郭を伴ってくる。
それは――。
――コシャクナ、ナゼココヲキリサケル! ソノカタナハナンダ!
「サク! サク! 戻って来て!!」
その声は、愛おしくてたまらない姫の――。
「闇ではなく、あたしの手を掴んで!」
自分の手を拒んだはずの姫の――。