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吼える月
第14章 切望
『……。小僧、お前は穢禍術を解呪しようとは思わぬのか? 呪詛を消さぬ限り、娘を生きさせるために、お前は危険を冒し続けることになるのだぞ? この苦痛がないだけでも、お前の人生は変わるぞ?』
白イタチは暗に仄めかす。
リュカさえ死ねば、お前の負担は軽くなるのだと。
『我の力は、お前の未来を明るくさせるぞ? お前の父のように』
その分の力で、穢れた死に向かう運命を変えられるだけではなく、武神将として、人から崇められ誉れある存在になれるのだと。
だがサクはそうした名声に興味はなかった。
あるのはただ、父の顔に泥を塗らせたくないという思いと、ユウナの笑顔を護りたいという思いだけ。
"危険になるのは、俺が弱いだけだ。親父ならきっと平然とやり抜ける。だから……親父を超えて、強くなればいいだけ。問題ねぇだろ"
『父を超える逸材か、ただの馬鹿なのか。なんとも微妙』
白イタチは嘆くようにため息をついた。
"それに……姫様がこんなになっても、それでも俺は、あいつを殺せねぇんだ。さっき……背中合わせになった時。リュカが俺を庇った時……俺は改めて思った。俺にリュカは殺せねぇって"
『……』
"甘いとわかっているが、たとえ道を違えても、どんなにあいつが俺と姫様を追いつめても、リュカに苦しむ姫様の心の中からあいつが消えなくても、親父やお袋を含め黒崙の皆が命の危険に陥っても、殺したくはねぇんだ。
もし殺し合うことがあるのだとすれば、俺の命はないと確定した時。なぁイタ公。姫様の鎮呪の役目……俺は他に譲る気はねぇ。他に譲るくれぇなら、リュカと相打ちを狙う。あいつひとりでは逝かせねぇさ"
『小僧……』
「サク? なに突然黙り込んで、イタ公ちゃんと見つめ合ってるの?」
「ははは、こいつ……よく見れば可愛い顔しているなって」
サクがイタ公の顎の下に指先を入れて、ちょいちょいとまさぐれば、イタ公は気持ちよさげに目を細め、長い尻尾を揺らした。
無論それは、ユウナの目からは小亀と戯れる所作にしか見えない。
「こんな時に……なんだかおかしいサク」
「こんな時だからこそ、無性に癒やされてぇ気持ちになるんですよ」
サクはなにかを達観したように静かに微笑んだ。
サクに宿る覚悟を見て取ったイタ公は、ため息をついた。