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吼える月
第17章 船上2
 

 だが――。

 一度味わってしまった禁断の味は、そう簡単に忘れられず。

 あれは合意でなされた愛の行為ではなく、あくまで命がかかったための仕方が無かった治療だと割り切ったはずなのに、そうユウナに諭したのは自分だというのに、あの甘美なひとときを再度願う自分がいる。

 割り切るどころかしがみついて、またひとつになりたいと己が叫ぶ。

 あの蕩けるような至福の時間を過ごしたいと、欲が強く渦巻いて。


 幼き頃から守り続けてきた愛おしい嫋やかな身体が、どうすれば艶やかに花開くのか、自分の身体は知ってしまっていた。


 だからこそ――、


 衣擦れの音だけで。

 ユウナの吐息ひとつだけで。


 すべての音が欲情を掻き立てる、淫猥な音となる。


 身体を震わされ、心を掻き乱され、



「姫様……」



 壊されていく、理性――。


 
「もう……そのへんで……。

じゃないと俺が……止らなくなる」


 最後の砦は死守せんと、唇を噛みしめたサクは……絞り出すような悲痛な声を響かせて乾いた笑いをした。

 しかしユウナは聞こえていないかのように、依然サクの首筋に顔を埋めて、その舌で精悍な首筋をちろちろと舐め続ける。


 熱い吐息を零しながら。


「ねぇ、姫様……。

蜂蜜は……もうなくなったでしょう?」


 やめろと口では突き放しながら、その手はユウナを愛おしむように髪をまさぐり続けて、引き寄せたまま。


「姫様。イイ子だから……」


 その指が今までは隠されていたうなじに滑ると、そこで初めてユウナはびくんと身体を跳ねさせて、舐める行為をやめてサクに顔を向けた。


「ね……?」


 髪をさらりと零しながら、ユウナに微笑みかけるサク。

 欲情したその顔を悲哀に満ちた翳りで覆い隠している彼に、ユウナが向けた顔は――。


「サク……」


 蜂蜜のようにとろりとしたもので。

 悩ましげな息遣いをしながら、濡れた瞳を苦しげに細めた。
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