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吼える月
第17章 船上2
「……っ」
ユウナは、思わず息を飲む。
びくん、びくん。
敏感すぎる場所で感じる、熱をもった脈動。
今にも暴れ出しそうなまでに猛々しく膨れあがるサク自身が、ユウナの深層を求めて動いている気がして、本能的な怯えが生じていた。
「姫様、そんなに緊張しないで。大丈夫、姫様の嫌なことはしませんから。俺を信じて、ね? だからゆっくり息を吸って、吐いて……」
優しく――。
とにかくサクは優しくユウナを抱きしめる。
「姫様、こっち向いて。俺を見て」
ユウナはもぞもぞと、サクの腕の中から顔を見上げる。
視線の先には、惑いすら吸い込んでいきそうな、妖しく揺れる漆黒の瞳があった。
熱に潤み、艶を持ち……、どこまでも成熟した性を魅せつける、ひとりの男の顔――。
あどけなさを消した、精悍な美貌を持つ男――。
……ユウナの胸に芽吹いたのは、安堵とはまた違う感情。
甘くて切なくて苦しくて――。
熱と鼓動に邪魔されて、泣きたいほど胸を締め付けるその感情の正体が掴めない。
「サク……よね?」
上気しながらも、どこか戸惑いと不安を浮かべたユウナの顔に、サクは微笑みながら何度も唇を落とした。
愛おしげに――。
「そうです。いつも姫様と一緒に居た、俺です」
「……っ」
「これからも姫様と一緒に居る、俺です」
甘やかでありながら、その言葉は強いものだった。