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第28章 初詣

桐生さんは運転席に座ったまま私が起きるのを待ってくれていた。

拓真さん、は？

ゆっくり視線を巡らせると拓真さんはドアの外。当然コートは着てなくて。
「拓真さん!」
慌ててドアを開け、降りようとしてシートベルトに阻まれる。
「ひゃっ！」
「真純っ」
勢いでガクンと引き戻されて、拓真さんがドアを押さえてくれた。
「大丈夫？」
「うっ、は、はい」

恥ずかしい……

顔から火が出そうな恥ずかしさと潮の香りのする冷たい空気とに、一気に目が覚めた。
「すみちゃん、落ち着いて」
クスクス笑いながら桐生さんがバックルを外してくれる。
「あ、ありがとうございます」
「どういたしまして」
桐生さんに頭を下げていると、拓真さんの手がコートの下から滑り込んできた。キュッと左手を握られる。
「おいで」
甘い声。ドキッと心臓が跳ねて、また頬が熱くなっていく。動きが止まりそうになって、慌ててコートを拓真さんに差し出した。
「コート、ありがとうございました」
「寒くなかった？」
「はい、温かかったです」
「ん」
小さく頷いてコートに袖を通す。ボタンは掛けずにそのまま、手を差し出された。
「おいで、真純」