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五十嵐さくらの憂鬱。
第10章 …10
さくらは言い訳は得意ではない。
まず、隠し事が割と苦手だ。
ポーカーをやったら真っ先に負けるタイプ。
さくらが視線を泳がせると
さらに1歩、樹が入ってきて
さくらは数え切れないほど後ずさった。

「なんで逃げるの?」
「えっと……」

えっとの後が続かず
ずるずると結局ベッドまで後ずさりする。

「どこまで逃げるの?
もう、それ以上先は行けないだろ?」

さくらは身体を90度曲げてベッド沿いに逃げようとした所を
壁に手を付かれて捉えられた。

「さくら、こっち見て」

さんざん視線を彷徨わせた挙句
おずおずと見れば
自分よりだいぶ背の高い樹が上から覗き込んでいる。

いつものガラス玉みたいな瞳は
よけい作り物のガラス玉みたいだ。

「風邪じゃないだろ?」
「…はい…」
「具合悪くないだろ?」
「…はい…」
「電話出なかったな?」
「…はい…」

そこまで一気に尋問され
樹は加減気味に壁を叩いた。
びくりとさくらの肩が震える。

「なんで逃げた?」
「……」

ーーー私がセフレだって、聞いたからーーー

そう声に出せばいいのに
実際にそうだという回答が来た時が怖くて聞けない。
そうだと言われたら、どうしたらいいのだろうか。
樹を好きな気持ちを伝えた所で
彼女に昇格できるのだろうか。
真綾の告白に対する回答とはなんなのか。

ぜんぶ、さくらにはわからない。

「言えないのか?」

樹の声が、さらにトーンダウンする。

「言えるまで、いたぶってやろうか?」

とっさに樹を見ると
ぐっと肩を持たれてさくらの身体が浮く。
ベッドに放り投げられたと気づいた時には
さくらの首筋にチクリと痛みが走った。

「痛っ……」

樹が、今までにない強さで
さくらの首筋を吸っていた。
それは、確実に青痣になる強さ。

「やだ、やめて下さい!」
「じゃあ早く言えよ。なんで連絡しないんだよ」
「それは…」

言えないなら
言えるまで詰問してやるよ。

樹の目が冷酷に光った。
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