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五十嵐さくらの憂鬱。
第11章 …11
「あれ、樹いたの?」

入れ違いに入ってきた修が樹を見、
その顔にびっくりし、
そして出口を見てから、樹を見た。

「今そこで、夏月と入れ違いになったけど…
樹の女っぽいの引っ張って、不気味に高笑いしてたけど…」
「くっそ、あいつ…」

手は出さないはず。
だが、わからない。
特に夏月は樹のものをとにかく欲しがる性格だ。

「樹…追いかけた方がいいんじゃない?」

我慢するなよ、と修が眉根を寄せる。

「顔、めっちゃ怖いよ。
たぶん、人が近づけないくらいの殺気放ってる」

樹は乱暴に机を叩くと立ち上がる。
その音に周囲は驚きを通り越して
恐ろしさで固まっていた。

「修、あいつらどっち行った?」
「たぶん、向こうだけど…。
待て、なにも持って行くな。
どうせ壊すんだから」

こちらも付き合いが長いせいで
樹と夏月をよく知っている。

夏月を殺しかねない勢いの樹に
手ぶらで行くよう忠告したのは
2人が喧嘩を始めると
恐ろしいくらいの物が壊れると知っていたからだ。

「急いだら? 夏月にくわれちゃうよ?」

その言葉が引き金になって
樹は夏月を追って駆け出した。


ほんの、数分前。

さくらは、夏月に引っ張られて
息が上がるまで走らされた挙句
ほとんど使われていない
本当に小さなAVルームへと入り込んだ。

「お邪魔な樹くんは、ここには来ない〜♪」

鼻歌交じりに、夏月は嬉しそうに部屋のダウンライトだけつける。
机が数個並び、そのひとつひとつに
骨董品レベルのテレビの画面が埋め込まれている。

「ここ、今じゃ使ってない教室だからね〜。
ちなみに今、この学校で使われてない教室は十数部屋あるんだよ!」

楽しそうに夏月はさくらを椅子に座らせた。

「んでね、ここは俺のお気に入りの場所なんだ」

にっこり笑うと夏月は可愛い。
小春がきゃあきゃあ騒ぐのも分かるが
さくらは少し苦手だ。

「さくらちゃん、女の子は誰だって不安だよ。
自信のある子なんて、滅多にいない」

急に真面目な口調になったので
さくらは驚き、そして少し安堵した。
樹がつきあっているくらいだ。
悪い人ではないはずだと思う。

「みんな彼氏に飽きられないか心配だし
特に樹なんてモテるから、心配も心配、ちょう心配でしょ?」

さくらはうなづいた。

「飽きられないようにフェラしてあげなよ。
俺が教えてあげるから」
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