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五十嵐さくらの憂鬱。
第1章 …1

ベッドの軋む音が窓から聞こえる雑音を消し去る。
はじめはキシキシ、少しずつ。
そのうちにギシギシと、沈み込むような深い音。

その音に比例するように、
悩ましい声が強く鳴いた。

「…さくら、家の人に聞こえる」

「んっ…ごめ…あっ……」

さくらは声を殺そうと、両手で自分の口元を強く押さえつけた。
それを見計らったかのように、
上に覆いかぶさった暗い人影が、
先ほどよりもさらに早く動きだす。

さくらの中で
彼のモノがどくんと脈打った。

「さくら、いくよ」

「あ、まだ……光輝…ん……っ!」

最後に数回、
さくらの奥へ奥へと入り込み、
彼は、あっという間に果てた。


そのまましばらく呼吸を整えると
ずるり、とそれをさくらの中から引き抜く。
いやらしい液がまとわりついた避妊具を、
無造作にティッシュでくるんで捨てた。

それをただ、さくらはベッドからじっと見ていた。

その視線に気づいたのか、
やっと彼がさくらの方を見て
ティッシュを数枚出して渡してくる。

だるい腕を持ち上げてティッシュを受け取るのを見届けると
光輝はさっさとジーンズを履き、
シャツを着てペットボトルのお茶を喉を鳴らしながら飲み干した。

ぐったりとしていたさくらは、
ようやくもそもそと起き上がると、
自分の脱ぎ散らかした下着を探して着けた。

光輝は、その間にはすでに身体を重ねていたことを忘れているのか
携帯の画面を覗き込んでゲームを始めていた。


「ねぇ、光輝」
「ん?」

今日こそ言おう。
そう決めていた言葉を
さくらはごくりと飲み込んだ。

黙るさくらを見ると、光輝はどうしたのと言わんばかりに首を傾げる。

「…んーん、なんでもないの」
「そう?」



ーーーえっちが、気持ち良くない。



さくらは、言おうと思っていたそのセリフを
またもや言えずに胸にしまいこむ。
ため息にも似た大きな息を吐くと
さくらはベッドの縁にこしかけて
光輝が夢中になっている画面を覗き込む。

よくあるパズルゲームのようで
光輝の指が滑らかに画面上を這いずり回る。



ーーー私にも、そうやって触ってくれたらいいのにーーー



光輝の指を恨めしげに見つめながら
さくらはさらに大きくため息を吐いた。


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