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五十嵐さくらの憂鬱。
第17章 …17
その直後に
耳に猛烈な熱を感じた。
それが、痛みだと気づくのに
数秒かかる。

「…い、たっ…」

耳がちぎれるかと思うほどの痛みに
思わず怖気付いて逃げ腰になると
すかさず逃げ場を防がれる。
それと同時に
今度はねっとりと耳を舐められる。

まみれた唾液の水音が
耳に直に染み込んでくる。
樹の舌先が耳の中を舐め回す。
甘噛みしたかと思えば
耳たぶをチロチロと舐める。

「…っ、先輩…」

抵抗しようとしたが、
壁に押し付けられて身動きさえ取れない。
そのまま耳を丹念に犯され
首筋に舌が触れた時にはすでに膝がくずおれそうになっていた。

「せんぱ…っ」

掴まれた手だけを残して
さくらの身体が重力に逆らえず落ちる。
それを樹の足が支えた。

「ぁっ…う…」

樹の足がさくらの股間をがっちり押さえつけ
さくらは自分の重力で、より一層苦しくもがく。
さらに食い込む樹の膝が
少し動いただけで、さくらの身体が
びくんと動いた。

樹はそのさくらを責めるように
耳を齧り尽くす。
意思とは反して、
いちいちさくらの身体は反応し
どんどん熱くなる。

「…こんな濡らして…」

樹がさらにさくらを責める。
その絶妙な責め苦にさくらはすでに限界になっていた。
身体中が樹を求め始める。

樹のきつすぎる抱擁が
その甘美なしびれを一瞬で払拭させた。
骨がミシミシいうほどの抱擁。
明らかに度を越したその強さに
息ができずに思わず口から空気が漏れ出た。

「…あの男の前でも、こんな風になったのか?」

違うと言いたかったが
息ができずにくぐもった声さえ出せない。

「あの男に、欲情したのか?」

まさか、という声は、かすれて届いたかどうかわからない。
酸欠で頭がぼうっとし始めた頃に
樹の拘束が解け
悲しい目をした彼と視線が交わった。

「…出てってくれ」

それにさくらは頷く。
涙がポロッと伝ったのは、単なるエゴでしかない。

「…別れよう、さくら」

このままじゃ。
その後の言葉を言わずに、樹はきつく唇を結ぶと
自分の部屋へと去って行った。

さくらのやけに冷静な頭は
樹の部屋においておいた、ほんの少しの荷物をまとめて
さっさと出て行くように指示をした。

さくらは、何も言えず
樹のマンションを出て行った。
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