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五十嵐さくらの憂鬱。
第3章 …3
目覚ましの音に文字通り飛び起きると
大音量の携帯を探した。
それは足元のカバンの中からすぐに見つかり
慌ててボタンを押して止める。

ズキン、と頭の芯が痛んだ。
カーテンの隙間から朝日が漏れているのが見え
やっと我にかえった。

「私、昨日…」

ーーーとんでもないことしたーーー!

「いや、でも、夢かな…」

見回せば、家まで送ってくれた樹の姿はない。
玄関で鍵を確認すれば、ちゃんと閉めてある。
ドアの内側の新聞ポストに、
鍵が入っていた。

まだ寝ぼけたままのさくらは、
その足で洗面所に向かう。

服は昨日のまま、
髪の毛はボサボサ、おまけに化粧はしっぱなし。
鏡で確認すれば、
目の下はマスカラと取れたラインで黒くなり
泣き腫らした目は若干腫れている。

「やば…」

とりあえず熱いシャワーを存分に浴びて、
汚れと疲れを追い払った。
たっぷり時間をかけてシャワーを浴び、
洗面所の鏡を見たとき、固まった。

「…夢じゃなかった…」

耳の下の首筋に
ポツリと赤い痕がある。

ふいに胸が締め付けられるような感覚がして
苦しいような、甘酸っぱいような感情がこみ上げた。
それをぐっと飲み込んで、
ドライヤーで髪の毛を乾かした。

朝食はパンでいいやと、
食パンをトースターに入れて
残り物のスープを温める。
いつもは熱いコーヒーを飲むのだが
昨日のココアの味を思い出して
今朝はココアをいれた。

テーブルに食事を用意した所で
そこにあったメモに気づく。

そこには綺麗な字で
携帯の番号が書かれていた。

「…樹先輩の、だよね…。あちっ!」

ぼうっとしていたさくらは、
あつあつのココアで舌を火傷した。

1限がなかったため、
恐る恐る、電話をかけてみる。

呼び出し音が続く。
1コール
2コール
3コール
4コール
5コール…

切ろうかとボタンに指を伸ばしたとき

『もしもし』

聞き慣れた声は、電波を通して違う声音に聞こえる。
さくらの心臓が飛び跳ねた。
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