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五十嵐さくらの憂鬱。
第1章 …1
「さて、さくらちゃんが変態と分かったところで」

男はさくらの肩を優しくぽんぽんと叩いた。

「これくらいで、意地悪はおしまい」

わけもわからず振り返ると
優しい微笑みと目が合った。

「ごめんね、いたずらして。
昨日、お楽しみを覗かれて
ちょっと仕返ししたくなったんだ」

そう言うと、
さくらの両肩を揉み始める。

「あーあ、こんなに凝っちゃって。
勉強しすぎじゃない?」
「…完全に貴方のせいです……」

少しむかつきながらも
マッサージの気持ちよさに、
しばしさくらは身を任せた。

「ところで、私の名前…」
「あまりにも腹がたったから
美術部員の名簿調べた。
びっくりしたよ、3人しかいないんだってね」

美術部は完全に廃部寸前だ。
しかも、3人のうち2人の先輩は幽霊部員で
まめに通うのはさくらくらいだった。

だから、昨日も1人だと思っていたのだが。

「なんで、腹がたったんでしょう…」
「さっきも言ったけど、お楽しみを邪魔されたから」
「え? それだけのために名簿を!?」
「いけない?」

いけないとは言わないが
まさかそんなとんでもない理由で
本気で怒る人がいるとは思わなかった。
さくらの耳に唇が近づいてきたかと思うと

「俺は、ご飯よりセックスが好き」

ウィスパーに卑猥な発言をした。

「それも、気持ちいいセックス。
女の子がエロい顔してよがり狂うような。
俺の指で、舌でがんじからめにして
俺のことしか考えられなくなるような…」

そんなことを耳元で囁かれて
それだけで恥ずかしくて
顔が真っ赤になる。

するとまた、肩を優しく叩かれた。

「美術部員て地味そうなコのイメージだったから
さくらちゃんみたいなコで驚いたんだ。
腹いせというより
可愛くていたずらしたくなっちゃった。
ごめんね、もうしないから」

そう言って、男は立ち上がった。

「じゃあまた」
「え、あの…ず、ずるいです。
名前くらい、教えて下さい!」

さくらのずるい発言に彼は笑うと、
名残惜しそうにさくらの耳を舐めた。

「…稲田樹。いつき、でいいよ。
さくらちゃんのエロい顔、好みだったから」

そう言って耳を甘噛みすると、扉から出て行く。

「あ、そうそう。
あんまり他の男に意地悪されて
濡らしちゃダメだからね」

爽やかな笑顔をさくらの脳裏に残して
彼ーーー稲田樹は美術室を後にした。
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