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監禁DAYS
第3章 今だけ傍にいて
屋外に出て乱暴に壁を蹴ってから荒く息を吐く。
くそ。
くっそ。
今度は拳で塀を殴りつける。
「いってえ!」
当たり前だ。
阿呆か俺は。
壁にもたれて髪をがしがしと掻き毟る。
ああ……いらつく。
苛つくなあ。
あの表情、あの眼、あの態度、あの身体。
全部が苛立たしい。
夕暮れの空が自分の影を伸ばしてゆく。
夜が来る。
朝が来れば、あと四日。
ポツ。
黒い点が爪先に堕ちた。
どんどん数が増えて群れを成していく。
雨か。
額にも水滴がぶつかる。
すぐに夕立になるだろう。
足早に玄関に入る。
靴も履いてなかったのか。
冷静になり、脈絡のない行動を恥じる。
背後で、頭上で、雨音が轟く。
「一郎!? 一郎!」
それと同時に悲痛な叫びが聞こえてきた。
美月の。
なんだ、あいつ。
余りに怯えた声に、意識の外で脚が駆けだした。
勢いよく部屋に飛び入ると、銃が転がりその傍らに美月がうずくまって震えていた。
今まで見せてきた演技がかった態度とは全く違う。
明らかに、何かに怯えて……
「おい、どうした」
お楽しみの最中じゃなかったのか、と軽く茶化すことは出来なかった。
美月は顔を未だに上げようとしないのだ。
解かれた両手はガリガリと肘を引切り無しに掻いている。
綺麗な爪が、赤く滲むくらいに。
屈んで肩に手を添える。
「み……」
言い終わる前に、美月の体がとん、と俺にもたれかかった。
脱力したように。
はっはっと過呼吸のように不規則な息をしながら。
「一郎、ああ……一郎、今だけ傍にいて。お願い」
「なんだ。また発作か?」
いや、違う。
でも何かはわからない。
美月は俺の胸元にすり寄ろうとしたが、足枷がそれを邪魔した。
しょうがなく、俺から美月の方に寄ってやる。
少し濡れたシャツに美月がぎゅっと身体を押し付ける。
息がわき腹に当たってくすぐったいが、今だけは我慢してやろうと思った。
曲げていた脚を器用に伸ばし、腰を下ろして美月を抱きしめる。
子供をあやすように。
優しく包むように。
「大丈夫」
いい加減でいて、よく効く魔法の言葉。
俺はガキの頃からこの言葉が嫌いだった。
なんの根拠もない安心の押し売りみたいで。
でも、大人になってそれの便利さを思い知る。
ほら。
美月の息も穏やかに。