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監禁DAYS
第5章 今だから言わせて
岸原大地。
三十二歳。
この名前を初めて目にしたのは、随分前だった。
「なんでこんなメジャーな犯罪者が?」
「お前な……一応ここ公共の場なんだから」
「こないだの都内通り魔の……」
「それが次の犯行も予定しているんだと」
「は?」
飲んでいたカプチーノをテーブルに置く。
泡はもう消えうせて、ただのオレみたいな色に変わっている。
「それをある女が知ってしまった。その女が今回の依頼主。まあ、いつも通り素性を明かすのが嫌いなようで、そっちの情報はない。だが、同時進行の仕事があってな。今日はそれが本題だ。ターゲットはそこに載っている」
パサリと書類を渡される。
絶句なんてものじゃなかった。
柊美月がそこにいたから。
「この、女……?」
「ああ。知り合いか?」
「いや……似てるだけだ」
男が眉を上げる。
「昔の女に?」
「いや……いい。気にすんな」
「そうか? 今回はちょっと変わっててな。この女、二重なんだ」
そう言って宙を見つめた男に違和感を覚える。
「二重? なにが?」
パラパラと捲っていた書類を指差される。
吸いもしない煙草の灰皿を転がしながら、男は言った。
「岸原大地の事件に関わっている。被害者家族の一人だな。皮肉なことに、犯人と遺族が同時にお前にターゲットとして依頼されたわけだ」
何か言おうとして開いた口がそのまま固まった。
何を言うつもりだった?
この世で一番無意味で意味の広い「そうですね」か?
柊美香。
彼女が殺された事件を俺は先日知った。
それ以来美月のことを考えていた。
余りにタイプの違う姉妹。
それでも仲のいい噂しか聞かなかった。
高校を卒業して、二人はどんな道を辿ったのか。
どうやってこの「途切れる」時まで来たのか。
今、美月はどうしているんだろう。
カプチーノが冷たく室温に染められていく。