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監禁DAYS
第6章 今ヤって
飢餓。
味わったことのないそれは、餓鬼なんて妖怪だか怨霊だか未だに知られる逸話的存在を生み出すほど苦しいものらしい。
共食いすらも厭わなくさせる。
何もしないで狂わせる、単純な方法。
美月の寝息を聞きながら、画面を眺める。
昨晩まで綺麗だった岸原の持つそれには、べっとりと血が纏われていた。
岸原大地には、噂がもうひとつ。
殺した女の子の肉を食べていた。
鑑識からの情報だが、毎回削ぎ落とされて散らばった肉片を集めても二キロほど足りないんだとか。
二の腕、乳房。
そのあたりの肉が。
今、奴は自らの肉を食らっていた。
唸り声を上げながら包丁を我が身に突き刺して。
水だけで、五日目。
飢餓は許容範囲を超えたようだ。
なあ、美月。
これが見たかったんだろ?
「今何時?」
「知る必要ねえだろ。十五時間は経ってない」
だるそうに身を起こし、体を見下ろす。
首を回して、肩甲骨を伸ばしながら、間延びした声で呟いた。
「千切ってないじゃん……びびり」
「気絶した奴のピアス弄って何が面白いんだ」
不満そうに唇を突き出すが、そこには些か安堵が見てとれた。
乳房は女性の象徴。
たまにそんな言葉を聞く。
だからこそ乳癌で摘出手術をするのが、男からはわからないほど苦痛になると。
男の象徴は男根か。
性器を切り取って血塗れのまま尻を犯したいとか言いやがった依頼人は何年前だ。
「お腹すいた」
「丁度良い。この映像でも見るか」
俺はパソコンを持ち上げて、美月の見やすい位置に置いた。
まだ寝ぼけた眼を瞬かせて、画面を見つめる。
その綺麗な眼球が浮き出るように瞼が持ち上がる。
興奮、か。
「自傷?」
「いや、生きるためだな。肉を食った」
此方を一瞥した眼が輝く。
「食った。食った。自分を食ったのね。ああ間に合った。このままガスで悶えるだけで死んじゃつまらないもの。ふふふ。美味しかった? ダーリン」
「やめろ。そういうことを言うのは」
無理に強がってる声は耳障りだった。
美月は笑みを消して、唇を舐めた。
この映像を刻んで冥土まで持っていこうという執念すら感じる眼差し。
岸原はいつまでも口をモグモグと動かして立ち尽くしていた。
包丁を持ったまま。
左腕の血を止めようともせずに。