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監禁DAYS
第6章 今ヤって
あとちょっとで届いたのに。
あとちょっとでわかったはずなのに。
あとちょっとで美香に近づけたのに。
「死ねっ! しねえっ」
力任せにロープを上げ、操り人形の如く首が曲がり肩ごと浮いた岸原が軋む音をあげる。
なんども腕を下ろしては振り上げる。
手のひらに食い込む痛みがひりつく。
同調するようにぴたりとくっついて上下する自分の体。
床にぶつかる顎の音と、血が跳ねる水音。
顔が痛いのは笑っているせい。
血の味が滲むのは嗚咽でこみ上げた饐えた胃物のせい。
なんとか言ってよ。
こんな醜い音しか聞いていないんじゃ気が狂ってしまう。
自分を見失ってしまう。
せめてこの男の命尽き果てるまでには意味が欲しい。
飲み込んだ唾液が吐き気を誘う。
なんて気持ち悪い。
鈍い音が木霊する。
せっかく発作が治まったのに、体の芯が不満に悲鳴あげる。
いいえ。
これは体じゃなくて、もっと奥。
おかしいな。
どこから痛みが。
疲弊しきった腕ががくりと体側に落ちる。
反動でゴトリ、と転がったきり、岸原は微動だにしなかった。
ロープを手放し、そっと傷ついた頬に指を這わせる。
「……死んだ」
他人の声みたいな馴染みのない振動が唇を震わした。
さっきまで熱く舌を絡ませたこの物体はもう、反応をしてくれない。
一郎の熱い息だけが聞こえる。
あら、まだいたの。
いつの間にかうなだれて、両耳をふさいでいる男を振り返る。
怠い脚に手をついて、なんとか立ち上がった。
よろりと重心がずれるも、なんとか死体を跨いで広い床に解放された。
足裏が冷たい。
親指を倒してツーっとなぞると、床に血の筋が残った。
鎖骨を拭うと汗だくだ。
喉が渇いた。
早くここから消えたい。
「一郎、行こう」
声をかけても、萎えた性器を露出したまま動かない。
「行こうよ」
それでも顔を上げてくれない。
もどかしくて、ペタペタと足音を鳴らして近寄り顔を覗き込む。
男の両目は何かを求めて見開かれ、閉まらない口からは唾液が伝う。
耳を塞いだ手の甲には血管が浮き上がり、肩も力で硬くなっている。
「一郎」
小刻みに震え、男は緩慢にこちらを見上げた。
あ……
見たことある。
ううん。
飽きるほど見た。
理解できないと喚きたい心を目から覗かせて。
「聞こえない」