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理想と偽装の向こう側
第9章 衝動と不安
部屋に入るなり、嘉之は私を抱き締めた。


「はぁ…久しぶり…」


「うん…」


嘉之の一つ一つが嬉しくて愛しくて堪らない。


軽く唇を重ねる。


「嘉之…」


「ん?」


「好き…」


嘉之は一瞬またキョトンしたけど、照れくさそうに笑った。


「あぁ…知ってる」


また唇が重なり、離れる度に言う。


「大好き…」


「うん」


「ずっと、好き…」


「うん…」


「愛してる…」


嘉之は私をジッと見て、私に深く口付けた。


その時の今までになく穏やかな笑顔…
優しく抱き締めてくれた腕…

幸せでいっぱいになった。 


こんなに満たされたのは、初めてだった。


それが…

最初で最後だったような気がする…。


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