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理想と偽装の向こう側
第5章 トラウマ
「ほい!香織ん上カルビ、いい感じだよ」


「わぁ~!おいし…ほごっ!」


大口で感嘆した私の口に、サンチェで巻いた上カルビの端を突っ込まれた。


いきなり何すんの!と、言いたかったか、口の中にはカルビの旨味が広がって、そっちの感動が勝った。


しかも小田切さんの指先が、何気に唇に当たっているんですが!


なのに小田切さんたら、ニヤッて笑いながら


「美味しい?」


「ひょいひぃへひょ!」


美味しいけど、それどころじゃない!


ナスの浅漬けといい、人の口にはホイホイ放り込んじゃうのは、趣味なのか?!


こちらの気を知ってか知らずか、小田切さんはマイペースに話し出した。


「香織ん、明日買い物行かない?」


やっとこ、カルビを飲み込めた私は


「買い物ですか?特に用事ないから大丈夫です」


「オッケ~い!じゃあ、明日ちょっと早起きね」


「はぁ…分かりました」


「だから、今日はとぐろ巻かないでね!」


「だから、巻いてまっふぐぅ…!」


反論しようと口を開いた途端、小田切さんはまたしても、サンチェに巻いた上カルビを突っ込んできた。


「ひょひゃひりひゃん!」


「ん~?何言ってんの~?」


またしても、ニヤニヤしながら、更に奥に突っ込んでくる。


「ほひょ!」


何か言おうにも、これじゃあ言葉が出なくて、モゴモゴしてしまう。


「美味いっしょ!」


ニッコリと小田切スマイルを放ちながら、離した手に付いたタレを舐めていた。


こ奴めっ!!
二度と小田切さんの前で、大口開くまい!!


との頑なではあれど、無駄な決意をしたのだった。


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