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女子大生 成宮恵理
第1章 序
久しぶりに台風がここの地方を直撃した。去年は一度も来なかったのに。
幸い、恵理が結婚した夫と住んでいるこの家は小高い丘の上にあるため、川の増水による被害の心配はまずしなくていい。
他にも殆ど自然災害というものを受けた事のない住宅街であるから、こういう時でも安心していられる。
しかしこの暴風雨ではさすがに外に出歩くことはできない。
買い物は行けないし、洗濯物も干せない、湿気が多いから部屋の掃除だってする気にはなれない。
だから専業主婦である恵理は、夫が仕事で居ない間、家の中で何もせず、じっと台風が過ぎ去るのを待っていた。
リビングで1人、紅茶を飲みながら窓の外を眺める。
凄い音。
外では自然の力が猛威を振るっていて、その音が他の全ての音を掻き消している。
聞こえるのは窓に雨が叩きつけられる音と、建物の隙間を勢い良く通り抜けていく風の音だけ。
絶え間なく鳴り響くこの音の中では、きっとどれだけ大きな声を発しても、近所住民の耳にそれが届く事はないだろう。
そう、聞えない。
絶対聞えない。
『大丈夫だよ我慢しなくても、ほら、外凄い音だし、絶対聞えないよ。』
ボーっと外を眺めていた恵理の頭の中で、ある男の声が再生された。
また、思い出しちゃった。
恵理の脳内に録音されていたその声は、もう10年近くも前のもの。
そろそろ忘れてもいいはずなのに、なぜかまだ残ってる。
台風が来るたびに蘇ってくる、あの人の声。
台風が来るたびに恵理はあの人の事を、あの日の事を思い出してしまうんだ。
それは、恵理がまだ大学生だった頃の話。
幸い、恵理が結婚した夫と住んでいるこの家は小高い丘の上にあるため、川の増水による被害の心配はまずしなくていい。
他にも殆ど自然災害というものを受けた事のない住宅街であるから、こういう時でも安心していられる。
しかしこの暴風雨ではさすがに外に出歩くことはできない。
買い物は行けないし、洗濯物も干せない、湿気が多いから部屋の掃除だってする気にはなれない。
だから専業主婦である恵理は、夫が仕事で居ない間、家の中で何もせず、じっと台風が過ぎ去るのを待っていた。
リビングで1人、紅茶を飲みながら窓の外を眺める。
凄い音。
外では自然の力が猛威を振るっていて、その音が他の全ての音を掻き消している。
聞こえるのは窓に雨が叩きつけられる音と、建物の隙間を勢い良く通り抜けていく風の音だけ。
絶え間なく鳴り響くこの音の中では、きっとどれだけ大きな声を発しても、近所住民の耳にそれが届く事はないだろう。
そう、聞えない。
絶対聞えない。
『大丈夫だよ我慢しなくても、ほら、外凄い音だし、絶対聞えないよ。』
ボーっと外を眺めていた恵理の頭の中で、ある男の声が再生された。
また、思い出しちゃった。
恵理の脳内に録音されていたその声は、もう10年近くも前のもの。
そろそろ忘れてもいいはずなのに、なぜかまだ残ってる。
台風が来るたびに蘇ってくる、あの人の声。
台風が来るたびに恵理はあの人の事を、あの日の事を思い出してしまうんだ。
それは、恵理がまだ大学生だった頃の話。