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《番犬》が女に戻るとき...
第12章 そういうの いらない
二人の姿は正直よく見えない。彼等からは死角となる位置で、茜は壁を背にして立っている。
「──…。…くん」
聞き耳をたてれば辛うじて会話が聴こえる。
こういう時は、女性の高めの声の方が聞き取りやすい。
「手の怪我は…? 具合は、どう?」
「──、…。………」
「──よかった…ぁ」
逆に、零の声は小さく聞き取りづらかった。
“ ボソボソ話すな!もっとはっきり声を出せよ ”
心のなかで零への不平が飛ぶ。
声に出てしまいそうなのを我慢して、茜はよけいに苛つきがたまってゆく自分に気が付いた。
なんだよこの状況
「……ふっ」
自分で後をつけておいて、勝手に苛ついてちゃあ世話ないな…。
自嘲気味に笑う彼女は、壁から背を離す。
わざわざ二人きりになってるのに、私がいても邪魔なだけだ。
こんなみっともない姿を誰かに見られる訳にいかないし。
教室に戻ろう
茜がその場を離れようとした時である。
「お手紙を読んでくれた…?」
「……手紙?ああ、…靴箱の、ラブレター?」
「…そッ// ──うん。そのラブレターよ…! 」