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《番犬》が女に戻るとき...
第12章 そういうの いらない
「…どうって…そりゃあ…」
話しかけられた零は絵美に視線を戻した。
彼はこのやり取りにたいした意味をおいていないかのように、すました表情で彼女を見下ろす。
「迷惑だった…?」
「…嬉しかったよ」
零は即答する。それと同時に、絵美は胸に手をあててその顔をぱぁっと輝かせた。
──彼女の方がよっぽど嬉しそうだ。
「篠田くん…っ、嬉しい‥わたしっ‥」
「──…」
「あなたを廊下で見かけてからずっと…!」
ずっと、好きでした。
彼女の口から告白の言葉が出ようとした瞬間、零はそれを遮った。
「──…靴箱にラブレター入ってて、嬉しくない男なんて、…いないでしょ」
「……え」
「迷惑だと思う人なんて、一部のとくしゅーな人間だけじゃない?」
「…!! なら…篠田くんは、わたしじゃなくても嬉しかったの…!?」
「──…。そうだろうね」
彼の返答は絵美にとって酷な内容だった。
零にとって、彼女は大勢の女子の中の…ただのひとりにすぎない。そこに特別な何かはありはしない。
零が嬉しいと言ったのは、彼女の気持ちではなくて靴箱を使ったベタな青春ごっこだ。
「…じゃあね」
ショックを受ける彼女の横を零が通りすぎる。
「待って!」
振り返った彼女は零の手を掴んで止めた。