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《番犬》が女に戻るとき...
第13章 球技大会 ~汗と鉛と、苛立ちと~
観戦中の茜に向けられた彼の顔はさすがにいつものすましたものではなかった。
ゲーム終盤にさしかかり、出場しっぱなしの零の息はあがって疲れの色が見える。
「ハァ、ハァ……」
形のよい鼻筋に汗の雫を光らせ
それでも彼は口の端をあげて茜に笑みを浮かべた。
茜の周りの女生徒が、今のは自分に向けられたのだと言いたげにテンション高く喜んでいる。
「…篠田」
どうしようか?目が合ってしまった。
応援するべきなのか。何を言えば──?
「──…っ…が、…ん…」
咄嗟に浮かんだ言葉が口から出そうになる。
──しかしそれを最後まで言うことはなかった。
...........
「がんばって!」
「──」
それは茜が言ったのではない。
声援の方へ彼女が顔を向ければ、そこではジャージ姿の絵美が胸の前で手を握り合わせて、試合を見守っていた。
細井 絵美──
“ 篠田に告白していた… ”
「頑張って!」
絵美が同じように叫ぶ。
彼女は3組の生徒だから、自分のクラスを応援していると思うのが当然だろう。
けれど本当はそうじゃない…
それを知っているのは茜だけだ。