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《番犬》が女に戻るとき...
第22章 茜サンは 強いよね
窓の外を眺めていた零が茜に向き直る。
彼は不意に指で自分の瞼を触ると、片手で器用に眼球からあるものをはずした。
カラコン──
人差し指にのっかったそのコンタクトは黒色で、零の方はというと片目だけがより色素の薄い瞳になっている。
「会って初日に、茜さんにカラコンしてるって見抜かれたときはホント焦ったよ(汗)」
零はへらへら笑っている。
ヤバい
洒落にならんくらい怖いぞ。
「…っ…そ、それよりお前、誘拐事件に巻き込まれるとは災難だったな! 九年前なら八歳…(いや、篠田は今は十九歳なんだっけ? )──十歳か、まだ小学生だな…っ」
茜は適当に話を流した。
零はというと、はずしたカラコンを指の中でくるくると丸めている。
「人気者の息子ってのも苦労するな」
「…全然、なんにも苦労なんてしなかったよ」
「──?」
零に弄ばれてしわくちゃになったコンタクトは
指をひらくとまだ僅かに広がろうとする。
「──…《小さな事件》って言ったでしょ? 」
広がったコンタクトを零がまた丸める。
「…何故だ?海軍は国民の誇りなんだろう。そのナンバーワンの息子が誘拐なんて、要求された金もよほどの額だったんじゃないのか?」
「…ふ、そう思うよねー」
「…っンだよ」
「俺みたいな大物を誘拐しといて、犯人の要求額はいくらだったと思う?…なんと、1000£」
「…?」
「まぁ、二十万ちょっと?」
バカにしてるよね
本気かふざけか…零は彼女の前で拗ねてみせた。