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蝶は愛されて夢を見る~私の最愛へ~
第31章 《巻の参―新しい生活―》
まさにその時、泉水は銀杏の樹の下に座っていた。前方を見つめているようだが、そのまなざしは遠く、虚ろであった。泉水が見つめているのは、家の前から続いてゆく、なだらかな一本の坂道なのに、その実、その瞳は何も映してはいなかった。
泉水のささやかな住まいは小高い丘の上にある。その頂から一本道が続いていて、村の本道につながっていた。その本道というのが、主街道の脇道から二つに分岐した小道へと続いてゆくというわけだ。