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蝶は愛されて夢を見る~私の最愛へ~
第34章 《巻の壱―山茶花の寺―》
あれは伊左久にとっては愕きであった。この女は気違いかもしれないと咄嗟に思ったほどだ。だが、光照の微笑は、御仏のように柔和で穏やかで慈悲に溢れていた。その表情は、不信心な伊左久が滅多に拝むことのない仏の顔に似ているような気もした。
―この方は観音菩薩だ。
ふと我に返った時、伊左久は匕首を投げ捨てていた。生まれてこのかた手を合わせたことのない男が、若い尼に向かって、まるで仏像を拝むように合掌していたのである。