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蝶は愛されて夢を見る~私の最愛へ~
第43章 《巻の壱―花惑い―》
やがて、フッと笑った。
その場の緊迫した空気がふっと緩む。
「そなたには負ける。河嶋」
―流石は、あの殿をお育てした乳母よの。
その科白は辛うじて呑み込んだ。
泰雅は生まれながらに英邁で、機知に富んだ人柄であった。現に、泉水を失うまで、泰雅はわざとうつけのふりをし、女道楽に現を抜かしていたのだ。それは前将軍の息子として生まれた泰雅が将軍家の家督相続に巻き込まれぬために懸命に考え出した苦肉の策であった。