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蝶は愛されて夢を見る~私の最愛へ~
第51章 《巻の四―花の別れ―》
季節は秋から冬とめぐり、江戸に再び春がやって来た。梅の花が江戸のあちこちでほころび始める頃、岡っ引きの勘七は町外れのとある長屋を訪ねた。
その家の前で、勘七はしばし逡巡を見せた。
この家には、かつて明らかに武家の出であると思われる若い女が暮らしていた。女は咲き匂う花のような妖艶な美貌であり、堅物で通る勘七さえハッとするほどの色香があった。だが、己れのそのような美しさなぞ微塵も意識はしてはおらぬようで、好もしい控えめさを持った女であったと記憶している。
その家の前で、勘七はしばし逡巡を見せた。
この家には、かつて明らかに武家の出であると思われる若い女が暮らしていた。女は咲き匂う花のような妖艶な美貌であり、堅物で通る勘七さえハッとするほどの色香があった。だが、己れのそのような美しさなぞ微塵も意識はしてはおらぬようで、好もしい控えめさを持った女であったと記憶している。