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蝶は愛されて夢を見る~私の最愛へ~
第55章 第一話 【春雷】
時橋泣かせのお転婆姫ではあったが、二年前には御家人の堀田久永の次男祐一郎とめでたく婚約が整った。当時、相手の祐一郎は十一、泉水は八歳であった。堀田家は一千石と石高も家格も槙野家よりは低いが、祐一郎は聡明と評判の前途有望な少年であった。ただ惜しむらくは、生まれつき虚弱であり、少し少年らしい溌剌さといったものに欠けているきらいはあったといえよう。剣術などよりは屋敷内で静かに本を読んだりする方が向いており、その点は泉水とは正反対であった。