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第55章 第一話　【春雷】

　あの人と二人で見た椿。
　椿の花だけが私の見た束の間の幸せな夢を知っている。
　これが夢ならば、醒めないで欲しい。
　椿よ、椿。
　私のあの人は一体、どこに行った？
　ねえ、椿よ。あの人を返して。私の許に帰して。せめて、それができないのなら、永遠に夢を見続けさせて欲しい。
　あの人のいないこの世界なんて、私には何の意味も持たないから。