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第57章 《壱》

　そのような茨の道を歩んできたにも拘わらず、あのような眩しいほどの笑みを見せる女の強さ、健気さに打たれたのである。おせんの身の上を知ってからは、尚更、あの女のことが忘れられなくなった。初めての出逢いから後も、おせんは度々、維助に〝お裾分け〟と称して手料理を持ってきた。それは大抵は前夜に作ったものではあったけれど、あるときは大根の煮たものであったり、またあるときは漬けものであったり、味噌汁であったりした。