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第58章 《弐》

「ですけど、維助さん。私は、こういう女です。過去ってものは厄介な代物で、忘れることはできても、消せるもんじゃありません」
　結局、維助は、それ以上もう何も言うこともできなかった。
　おせんの家を出てからの帰り道、維助は物想いに耽った。
―好きなんだ。一緒になっちゃアくれねえか。
　無理やり呑み下したそのひと言は苦い塊となり、重い鉛のように奥底に沈み込んだ。だが。