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第60章 《其の壱》

　しかし、弥子は嗣道の無骨な人柄を最初から好ましく思った。京の公達は皆、雅で女を口説くのにも手慣れているが、言うなれば表ばかり飾り立てて中身のない軽佻浮薄な男ばかりで、弥子は、そういう類の男をあまり好きにはなれなかった。その点、嗣道はたとえ上辺は無愛想で、女心を時めかせる科白一つ口にせずとも、かえって、その不器用さに好感が持てたのだ。