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蝶は愛されて夢を見る~私の最愛へ~
第60章 《其の壱》
 確かに嗣道の言うように今生の別れではないものの、ひと度槙野の屋敷に上がれば、そう簡単には里帰りはできないことは判っている。すぐ近くにいながら、現実としては遠く隔てられているようなものであった。
 無骨な手に引き寄せられるままに、弥子は嗣道の逞しい胸に頬を寄せる。
 手つかずの飯も折角温めてきた羮も膳の上のものはすべてが冷めてしまっていた―。
 春まだ浅い、弥生の初めの夜のことである。
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