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蝶は愛されて夢を見る~私の最愛へ~
第64章 十三夜の月 《壱》
筆を持ったことすら憶えてはいないのに、現実として、その筆跡は紛うことなく美咲自身のものであった。文机の脇には墨をたっぷりと含ませた筆と硯まで置いてある。
美咲の眼に涙が溢れた。美咲は何より自分が怖かった。無意識の中にお京を憎いという己れの気持ちを真っ白な紙一面にぶつけた自分。その自分がいつか生き霊(すだま)となり果て、かの〝源氏物語〟の六条御息所のように恋しい男の心を奪った女をとり殺してしまうのではないか、そんな危惧を抱いたのだ。
美咲の眼に涙が溢れた。美咲は何より自分が怖かった。無意識の中にお京を憎いという己れの気持ちを真っ白な紙一面にぶつけた自分。その自分がいつか生き霊(すだま)となり果て、かの〝源氏物語〟の六条御息所のように恋しい男の心を奪った女をとり殺してしまうのではないか、そんな危惧を抱いたのだ。