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蝶は愛されて夢を見る~私の最愛へ~
第64章 十三夜の月 《壱》
虫の音(ね)がその中から一斉に響いてくる。眼を閉じると、周囲から虫の音がまるで波のように押し寄せるようだ。
我が身の他に誰一人としておらぬ山頂の夜は静謐で、月に照らし出された景色はこの世のものとは思えぬほど現実離れしている。殊に夜陰にひっそりと浮かび上がった萩の花は、夢幻の世界のもののように見えた。
今生の名残に、これほどの美しき夢のような光景を眼にすることができたのも、御仏が少しは哀れんで下されたのか。