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蝶は愛されて夢を見る~私の最愛へ~
第11章 《巻の壱―予期せぬ災難―》
泉水の心は弾んだ。先刻までの暑さにうんざりした気分もいつしか霧散していた。やはり、かんざしを買ったことで、娘らしい心の華やぎを感じていたのだ。ゆえに、往来の向こうにちっとも注意を払っていなかったのは迂闊であった。ハッと気が付いた時、泉水は眼を見開いた。
大通りを全速力で駆けてくる荷車が視界の片隅をよぎる。馬を駆る男の怒声、行き交う通行人の悲鳴、それらが一瞬、現ならざる世界のもののように思えた。