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蝶は愛されて夢を見る~私の最愛へ~
第17章 《巻の参―幻(げん)花(か)―》
そのときの彼の心の底に、復讐の一念がなかったとはいえまい。それは、武門の家に生まれながら、生まれ落ちたその瞬間から亡き者とされ、己れの生まれた世界で生きることの叶わなかった彼ならではの口惜しさ、恨めしさでもあったろう。
その場を見た仲間の僧は、このことを師僧である浄円には告げなかった。師が知れば、徳円が叱責されることは判っていたから、庇ったのだ。徳円失踪後、この僧は初めて浄円にそれを告げた。