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第19章 《其の壱―嵐―》

「殿、私は今まで殿の妻でありながら、何も存じませんでした。次の将軍さまをめぐっての争いなぞ、正直、どこか別の世界のことだと思うておったのです。まさか、殿がそのためにお生命を狙われることになると、事態がそこまで切迫しているのだとは想像もしておりませんでした」
　泉水は悔しげに言った。
「私は駄目な妻でございますね。何も深刻に考えもせず、一人で身勝手に町中をうろつき回って、殿にご心配ばかりおかけして」