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第2章 《其の壱》

　男に逢えぬまま日は徒に過ぎてゆく。
　やはり、あの男に逢うことは二度とないのだ。男との印象深い出逢いはほんの偶然のもので、御仏が気紛れに二人の人生のほんの一瞬を交わらせただけだったのだ。何と儚い縁(えにし)の糸。しかし、それが人と人の出逢いというものだろう。
　何より江戸は広い。あの男がいつもどの界隈を行商しているのかは知らないが、たった一度、たまたまあの場所を通りかかっただけなのかもしれないのだ。
　美空の中に諦めがひろがり始めていた。